私達が「嬉しい!」「幸せ!」「楽しい!」と喜びを感じる時、2つの種類に分けられるとご存じでしょうか。喜びの感情にはタイプが異なる2つがあるのです。
タイプ1の喜びと、タイプ2の喜びと名付けてみます。
タイプ1は、おいしい物を食べた、暑い日にプールに飛び込んだ、お風呂にはいってほっとする等、自分から進んで求めていく喜びです。即効性があり、すぐに味わえる喜びです。
タイプ2は、難しい仕事をやり遂げた、懸命に勉強して試験や資格に合格した、毎朝3キロ走るジョギングを今日も達成した等、必ずしも自分から積極的に求めないもので、障害や時間がかかる道のりを経て得られることの多い喜びです。
人間はタイプ1の喜びだけでなく、タイプ2の喜びを味わうことで、人生に対する幸福感が高まるというのです。
タイプ1の喜びだけでは、人間の人生に対する満足度は深まりにくいというわけです。
トロント大学の心理学のポール・ブルーム教授が著した『The Sweet Spot: The Pleasures of Suffering and the Search for Meaning』は、このタイプ1とタイプ2の違いを解説し、タイプ2の喜びを得るためには、自分にとって難しすぎず、簡単すぎず、適度にハードルがあり、克服した時の達成感が味わえるようにしなくてはならないと説明しています。ちょうど頃合いのいいスウィート・スポットを見つける必要があるということなのです。
このタイプ1とタイプ2の喜びの種類と違いについては、心理学的にまだ研究課程にあり、実証研究が更に必要な分野なのですが、脳科学の発展により、タイプ1とタイプ2の喜びの違いについて興味深い事が分かってきました。
タイプ1の喜びを感じる時は脳の広範囲の部分で刺激が起きます。
しかし、タイプ2の喜びを感じる時は、脳の限られた小さい部分でしか刺激が起きません。
つまり、タイプ2の喜びを感じるきっかけは、脳の小さな一部が活性化しないと感じられないのです。
ブルーム教授によると、タイプ1の喜びは「WANT」(欲求)の感情に結び付いていて、タイプ2の喜びは「LIKE」(好む)の感情に結び付いていて、それぞれ脳の活性化する部分が違うというわけです。
人間の脳は原始の頃のままの機能を多く残していますから、脳の第一優先事項はサバイバル。生き残る、生き抜くために「WANT」を強く感じるようにできています。
一方「LIKE」は、生物としては贅沢な感情であり、サバイバルから脱して安全な環境に置かれていることを認識した上でやっと感じ取れる感情だということなのです。
ですから、私達の脳は「WANT」の感情を強く感じ、積極的に「WANT」を満たすことを求めます。一方、「LIKE」はなくても生きていくことはできるので、自分で自分の「LIKE」を刺激しないと、「LIKE」を求めようとはしないわけです。
現代の私達は、「WANT」だけではなく、「LIKE」からくるタイプ2の喜びも味わいたいと思っています。達成感、充実感、自己肯定感、自己効力感。このような感情は「LIKE」からくるタイプ2の喜びです。
しかし、現実的には私達はタイプ2の喜びを感じるための活動を避けたり、遠ざけたりしています。
例えば、朝30分ランニングして健康になろうと決めたとします。朝走った後は爽快で、自分に満足でき、前向きに一日を始められます。朝ランニングをした後の高揚感を自分はよくわかっています。
しかし、わかっていても、昨夜疲れたから、今日は寒いから、朝ではなく夜に走ればいいなどの何等かの理由をみつけて、朝のランニングをさぼろうという自分もいるのです。
自分に約束した通り、朝30分ランニングすれば、タイプ2の喜びを味わえるとわかっていても、ふかふかの布団で寝ていたいというタイプ1の喜びの方に引っ張られてしまうこともしばしばです。
私達の脳の構造は、「WANT」に結び付いたタイプ1の喜びを求めやすく、「LIKE」に結び付いたタイプ2の喜びを求める行動を起こしにくいのです。困った脳です(笑)。
そこで、困った脳をうまくあやして、タイプ2の喜びを追求するよう自分を動かしていく必要があります。そのために様々なアイディアが生み出されています。
次回はそのアイディアを紹介したいと思います。
※イエール大学のLaurie Santos博士のポッドキャスト番組「The Happiness Lab」の「You can’t always want what you like」を参考にしています。