「認知のゆがみ」に対抗する「合理的な反応」をすぐに書き出すことができて、自分のネガティブな感情や考えをなくす、あるいは減らすことができればよいのですが、状況によっては「認知のゆがみ」を認められなかったり、「合理的な反応」を思いつかないことがあります。怒りや自己否定などあまりにもネガティブな感情が大量で強烈な場合、「合理的な反応」を書こうとしても出てこない場合があります。
そういう場合は「感情のメリット・デメリット分析」をしてみましょう。自分が感じているネガティブな考えのメリットとデメリットを書き出していくのです。
前回の例でいえば「顧客Aに営業の電話をしたら忙しい時に電話してくるなと怒鳴られ、電話を一方的に切られた」という状況で、自分が「Aはなんて失礼なヤツなんだ!いくら客だからといってあんな態度を取っていいはずがない!自分はAに軽んじられている。」と自動的に考え、怒りを感じています。
「自分はAに軽んじられている」という自動思考を信じることのメリットとデメリットを書き出していきましょう。
「自分はAに軽んじられている」を信じるメリット
- Aが電話を切ったのは自分のせいではない。もともとAは自分と話す気はなかった。
- Aは嫌な奴なのだ。電話を切られたのは自分のせいではなくAが嫌な奴だからだ。
「自分はAに軽んじられている」を信じるデメリット
- 自分の価値が下がった気がする。
- 自分の能力に対する自信がなくなる。
- Aに電話をするのがますます嫌になる。
- Aに腹が立つ。怒りで気分が悪い。
- いらいらする。
「自分はAに軽んじられている」と信じることのメリットを見つける事は結構難しいですよね。対照的に、デメリットはいろいろと思いつくでしょう。
「自分はAに軽んじられている」と信じる事は、自分にとってメリットよりも、デメリットの方が断然多いのです。自分で自動的に思いついた考えとはいえ、自分自身にデメリットをたくさん与えているのです。
「・・・と信じることのデメリットは、メリットよりも全然大きい」と気づくことで、そんな感情や考えに振り回されている事が、他の誰でもない、自分自身にとって損だと気づきましょう。デメリットをたくさん書き出しているうちに、そんな考えを信じることが馬鹿馬鹿しく思えてくるかもしれません。
自分で作り出した考えにより、自分にデメリットを与えても仕方ありません。自分にデメリットが多い考えはおかしい、自分が信じるべきではないと気づきましょう。
そして、他にもっと自分にメリットのある考えがあるのではないかと探してみましょう。それが「合理的な反応」に結び付いていきます。
人間は誰でも、自分にとってメリットのある行動や考えを好むものです。わざわざ自分にデメリットがある行動を選ぶ人は滅多にいません。
ネガティブな感情や考えに囚われたら、それを信じる事のデメリットが、メリットよりもはるかに多いことを、書き出す事で気づきましょう。
※このシリーズでは、デイビッド・D・バーンズ氏、アーロン・T・ベック氏の研究、著作を参考にしています。