ネガティブな状況に対し自動的に浮かんできた感情や考えを書く「自動的な思考を書き出す」プロセスをへて、そこに埋め込まれている「認知のゆがみ」を見つけ出す事が、ネガティブ感情を分解するためには重要なのですが、「認知のゆがみ」が探しにくい場合があります。無意識の中に深く埋め込まれた「認知のゆがみ」は、あまりにも自然な考えのように思えて、それが事実ではない、歪んだ考え方だと気づかない場合があるのです。
そのような場合にお勧めの方法が「垂直矢印技法」です。
「自動的な思考」を書き出した後、その一つを取りあげ、ひたすら下向きの↓で問いかけていきます。「もしそれが真実ならなぜ私は動揺するのか?私にとってそれはどんな意味があるのか?」と、自分に繰り返し問うていきます。
前回の例で「(営業の電話を忙しい時に電話してくるなと怒鳴られてがちゃんと切られ)私はAに軽んじられている」という考えが自動的に浮かんできたケースを、垂直矢印技法で解きほぐしていきましょう。
私はAに軽んじられている。
↓もしそれが真実ならなぜ私は動揺するのか?私にとってそれはどんな意味があるのか?
Aに馬鹿にされたと感じ、屈辱を味わっている。
↓もしそれが真実ならなぜ私は動揺するのか?私にとってそれはどんな意味があるのか?
Aとビジネスの話をしないといけないのにAと話をしたくないし、できないと思う。
↓もしそれが真実ならなぜ私は動揺するのか?私にとってそれはどんな意味があるのか?
Aとの商談ができずに、契約が取れないだろう。私の営業成績は落ちるだろう。
↓もしそれが真実ならなぜ私は動揺するのか?私にとってそれはどんな意味があるのか?
私の営業成績が落ちれば、会社をクビになるかもしれないし、ますます屈辱感を味わう。
↓もしそれが真実ならなぜ私は動揺するのか?私にとってそれはどんな意味があるのか?
営業成績が落ちて、会社をクビになることが私は怖い。
↓もしそれが真実ならなぜ私は動揺するのか?私にとってそれはどんな意味があるのか?
会社をクビになれば、私はダメ人間ということで、価値がない人間になるからだ。
垂直矢印技法によって自動的に浮かんできた考えを掘り下げていくと、「私はAに軽んじられている」という自動思考は、「営業成績が落ちて会社をクビになりダメ人間になる」事を恐れている事に繋がっているとわかります。
つまり、自分とAとの関係性やAの態度よりも、自分が営業成績をあげられるか、会社をクビにならないような実績をあげられるかの方が、自分にとっては重要な問題なのです。
そう理解できれば、Aとの電話に怒っているよりも、A以外の顧客で営業成績をあげることを考えようと思ったり、Aから契約を取るためにAの態度を柔らかくするためにはどうしたらよいのか考えてみる等、「ではどうすればよいのか?」という、問題よりも解決法の方に心や頭が向かっていきます。
また、Aに電話をがちゃんと切られたことだけで、「会社をクビになってダメ人間になる」ことを恐れる考えは、あまりにも行き過ぎで拡大解釈だと気づくでしょう。「認知のゆがみ」の15個のリストを見れば「結論の飛躍」「拡大解釈」という「認知のゆがみ」がまさに当てはまると気づきます。
「認知のゆがみ」を認識したら、「書いて解きほぐすネガティブ感情シリーズ➁ 「認知のゆがみ」に対抗する」で説明した方法で「認知のゆがみ」に対抗する「合理的な考え」を書き出してゆくのです。
このように垂直矢印技法は
- 自分が本当は何を恐れているのか、何を嫌だと思っているのかを理解する事に役立つ。
- 「認知のゆがみ」をあぶり出す事に役立つ。
というメリットを持っています。
※このシリーズでは、デイビッド・D・バーンズ氏、アーロン・T・ベック氏の研究、著作を参考にしています。