前回まで説明してきたように、ネガティブな状況に対し自動的に浮かんできた感情や考えを書く「自動的な思考を書き出す」プロセスをへて、そこに埋め込まれている「認知のゆがみ」を見つけ出し「合理的な反応」を書き出す事がネガティブ感情を分解するために有効なのですが、「認知のゆがみ」や「合理的な反応」を見つけられない場合があります。
その場合の対処法として前回は「垂直矢印技法」を紹介しましたが、他にも「二重の基準技法」という方法があります。「技法」というと難しい感じがしますが、要はテクニックです。ワザ、スキルと思って下さい。
「二重の基準技法」とは、自分の行動を、自分ではなく他人の行動として捉えて、それが自分の親友の行動ならばどのような言葉をかけるか想像してみる技法です。
たいていの場合、人は他人よりも自分に厳しく批判的になります。ネガティブな感情や考えをそのまま「自動的な思考」として書き出した後、そのような「自動的な思考」を自分ではなく、大切な友達が持ったとして、自分はその友達にどう語りかけるでしょうか?
- 「なんてダメなんだ!」
- 「いつも失敗ばかりしているではないか」
- 「努力をしていないからこういう失敗をするのだ」
- 「あなたに能力なんかない」
そんなキツイ言葉は、悩んでいる友達に投げかけないですよね?
でも、自分自身にはそのようなキツイ言葉や批判を突き刺している場合が多くないですか?
前回の例でいえば
「(営業の電話を忙しい時に電話してくるなと怒鳴られてがちゃんと切られ)私はAに軽んじられている」という考えが自動的に浮かんできました。
「私はAに軽んじられている」と考える親友に、あなたはどのような言葉をかけますか?書き出してみましょう。
- Aさんはたまたまいらいらしていたのよ。別にあなたのことを軽んじているわけではないわよ。
- Aさんの態度は失礼だなあと思う。でも、それだけであなたを軽んじているとは決めつけられないでしょう?
- 朝9時に電話をかけたからAさんも忙しかったのではない?朝会の直前だったとか。
- Aさんとは今まで普通に電話で会話して、商品の提案も聞いてもらっていたでしょう。今回の一本の電話のことで考え過ぎではないかな?
- 朝は本当にAさんは忙しいかもしれないから、今度は午後に電話してみたら?
- 今までAさんの態度で、軽んじられていると感じたことはあった?なかったのなら、今回の電話の件はたまたまで、軽んじられているかいないかという問題ではないのでは?
- それとも今までもAさんに同じような態度を取られて、失礼だなあと思うことがあれば、Aさんは本当にあなたを軽んじているかもしれないわね。そう思うなら上司に相談してみたら?
- もし本当にAさんがあなたを軽んじているとしても、別にどうってことないのでは?この世の終わりってわけではないし。Aさんの他にも顧客はいるでしょう?Aさん以外の顧客に電話してみたら?
自分の問題だと自分を失敗者、落伍者のように批判し、なかなか前向きな考えになりませんが、同じ問題でも親友が抱えているとなると、いろいろな助言や違う視点が浮かんできませんか?これが「二重の基準技法」のメリットです。
特に黄色でハイライトした部分のように、「二重の基準技法」を通じて、次に取る行動のアイディアが浮かんでくることも多いのです。
自分に甘過ぎるのは問題ですが、自分に厳しすぎるのも問題です。
ネガティブな感情を抱える状況になった時、親友に語り掛けるように相手に話しかける言葉を書き出してみましょう。
その中に、はっとする気づきがあるかもしれませんし、こうしたらいいという次に起こすべき行動のヒントが出てくると思います。
このように「二重の基準技法」には
- 自分自身に対する言葉では思いつかないような考え方や行動が浮かんでくる事が多い。
- 問題から距離を置いて、全体像を眺められる。
- 自尊感情を高められる。厳しい自己批判から離れられる。
- 特に「拡大解釈、過小評価」「結論の飛躍」「全か無か思考」という「認知のゆがみ」を崩すことに効果的。
というメリットがあります。
※このシリーズでは、デイビッド・D・バーンズ氏、アーロン・T・ベック氏の研究、著作を参考にしています。