ネガティブな状況に対し自動的に浮かんできた感情や考えを書く「自動的な思考を書き出す」プロセスをへて、そこに埋め込まれている「認知のゆがみ」を見つけ出し「合理的な反応」を書き出す事がネガティブ感情を分解するために有効です。しかし、「認知のゆがみ」や「合理的な反応」が見つけにくい場合があります。そのような場合に「感情のメリット・デメリット分析技法」「二重の基準技法」という方法を紹介しましたが、もう一つ「証拠探し」という方法を紹介しましょう。
前回の例でいえば
「(営業の電話を忙しい時に電話してくるなと怒鳴られてがちゃんと切られ)私はAに軽んじられている」という考えが自動的に浮かんできました。「私はAに軽んじられている」という考えに自分が囚われているとします。悔しいやら、悲しいやら、ネガティブな感情で鬱々としているとします。
そこで「私はAに軽んじられている」という考えが、真実かどうか、証拠を探すのです。
真実である証拠と、真実でない証拠の両方を探して書き出してみましょう。
証拠を探す時、日時がはっきりしているならばそれを書き、数量的な証拠があるならそれも書き入れましょう。なるべく具体的な証拠を探すのです。
「私はAに軽んじられている」ことが真実である証拠
- 〇月〇日朝9時にAに電話をしたら、がちゃんと切られた。
- 〇月〇日朝9時に、Aに電話をしたら「忙しい時に電話してくるな」と乱暴な言葉を言われた。
「私はAに軽んじられている」ことが真実でない証拠
- 今までAに20回ほど電話をして話しているが、がちゃんと切られたのは今回だけだ。
- これまでミーティングで話し合う時にAが乱暴な言葉を自分に言ったことはなかった。
- 2022年の1年間で私の商品の提案をAは5回聞いてくれた。
- 〇月〇日14時のミーティングで会った際、Aは鹿児島旅行のみやげのお菓子を私にくれた。
それぞれの証拠を書き出したら、その考えが「真実である証拠」と「真実でない証拠」の数のどちらが多いかを比較しましょう。
また、どちらが具体的な証拠が揃っているか比べてみましょう。
多くの場合「真実でない証拠」の数の方が多く、「真実でない証拠」の方が具体的だと思います。
「ああ、私は自分で勝手に思い込みをしていたかもしれない」と気づいたらあらためて15種類の「認知のゆがみ」のリストを見て、自分が陥っている「認知のゆがみ」を特定してみましょう。
この場合は「結論の飛躍」「拡大解釈」という「認知のゆがみ」に陥っているようです。
「認知のゆがみ」を特定できたら、「合理的な対応」の考えを書き出していきましょう。
その考えが「真実でない証拠」として書き出した事が、「合理的な対応」の考えのベースになっていくでしょう。
合理的な対応の考え
- 今までAに20回ほど電話をして話しているが、がちゃんと切られたのは今回だけだ。今回はたまたまAさんの都合の悪い時に電話をしてしまったのではないか。
- これまでミーティングで話し合う時にAが乱暴な言葉を自分に言ったことはなかった。今回はAさんはたまたまいらいらしていたのではないか。別に自分にいらいらしていたわけではないかもしれない。
- 2022年の1年間で私の商品の提案をAは5回聞いてくれた。私を軽んじていたら、Aさんはそんなに私のために時間を割いてくれないだろう。
- 〇月〇日14時のミーティングで会った際、Aは鹿児島旅行のみやげのお菓子を私にくれた。Aさんが私を軽んじていたら、みやげをくれたりしないだろう。
このように「自動的に浮かんだ考え」に囚われている時には、その考えが真実か否かの両方の証拠探しをして比較すると、客観的で合理的な思考に入りやすくなります。
このように「証拠探し」の方法には
- 「認知のゆがみ」をみつけやすい。
- 「合理的な対応」の考えに繋がりやすい。
- 客観的な状況把握をしやすい。
というメリットがあります。
※このシリーズでは、デイビッド・D・バーンズ氏、アーロン・T・ベック氏の研究、著作を参考にしています。