批判を受けた時、叱責された時、怒りや悲しみ、自分自身に対する絶望、自己否定など、様々な反応がありますが、一番多い反応は「やり返す」「言い返す」というブーメラン反応だと思います。
- 「こんなミスをするなんてバカじゃないのか!?」
- 「ぐずぐずしないでさっさと勉強に取り掛かりなさいよ!」
- 「仕事が遅い!もうちょっと効率よくできないのか?」
こんな風に批判されたら、
- そこに踏みとどまり言い返す
- その場を逃れて攻撃の矢をかわす
のどちらかの反応を選ぶことが多いと思います。前述の例でいえば以下のような反応になることが多いでしょう。
- 「こんなミスをするなんてバカじゃないのか!?」→「そんな言い方はないでしょう!」
- 「ぐずぐずしないでさっさと勉強に取り掛かりなさいよ!」→「うるさいなあ!口出ししないでよ!」
- 「仕事が遅い!もうちょっと効率よくできないのか?」→じっと黙っている。
しかし、もう一つ、第三の反応という選択肢があります。「相手を無力化する」という反応の方法です。武装解除法(disarming technique)といって、相手の言っている事に部分的に同意し、相手の批判の勢いを削ぐのです。
相手を無力化するコツは次の5つです。
- 相手の批判が正しいか否かにかかわらず、同調する方法を見つける。
- 嫌味や弁解は避ける。
- 共感できる何かしらの点を見つける。
- しかし相手に全部は同意しない。
- 「時々」「多少」「たまに」「もっと~したい」「もっと~しないようにしたい」というフレーズを入れる。
前述の例で、相手を無力化する反応を考えてみましょう。
- 「こんなミスをするなんてバカじゃないのか!?」→「私も時々自分がバカだなあと思います」
- 「ぐずぐずしないでさっさと勉強に取り掛かりなさいよ!」→「確かにぐずぐずしていました。ちょっと長く休んでいましたよね」
- 「仕事が遅い!もうちょっと効率よくできないのか?」→「私ももっと効率よくできたらいいなあと思います」
このように反応されると、相手は批判や攻撃のパワーが弱くなり、次の発言は批判よりも助言的な内容になる事が多くなります。助言であれば、あなたはそれを受け入れやすくなるでしょう。
武装解除法を適用されると相手との対話も、批判と怒りの応酬から、「違う状態にするためにはどうするのか」という対話に発展しやすくなります。
- 「こんなミスをするなんてバカじゃないのか!?」→「私も時々自分がバカだなあと思います」→「そう思っているなら、ミスをなくすために注意すべきだろう?」→「はい、注意したいです。具体的にはどの点に注意したらよいのでしょう?教えて頂けますか?」
- 「ぐずぐずしないでさっさと勉強に取り掛かりなさいよ!」→「確かにぐずぐずしていました。ちょっと長く休んでいましたよね」→「そうよ、時間を無駄にしているわよ」→「はい、確かに時間を無駄にしたと私も思います」→「わかったのならいいのよ。早く勉強を始めなさいよ」→「はい。早く勉強した方がいいと私も思います」
- 「仕事が遅い!もうちょっと効率よくできないのか?」→「私ももっと効率よくできたらいいなあと思います」→「そう思うなら仕事の方法を工夫しなさい」→「はい。仕事の方法を工夫して、効率的になりたいです」→「なら、そうしなさい。優先順位の高いタスクから取り掛かりなさい」→「はい。優先順位の高いタスクから手をつけます。アドバイスありがとうございます」
武装解除法によって相手を無力化する事は、決して自分に嘘をつくとか自分をごまかすことではありません。相手と自分のネガティブな感情が対話によって増幅しないように、相手の言葉のパワーを弱体化させ、自分も批判の矢で貫かれることを防ぎ、「ではどうしたらいいのか」という方向に思考を向けさせるものです。
その場ですぐに相手を無力化する切り返しが思いつかないという場合は、ノート等にあらかじめ切り返しのフレーズを書き出しておきましょう。
- 「確かに私は〇〇〇でしたよね」
- 「私も時々〇〇〇と思います」
- 「私も〇〇〇できたらよいなあと思います」
- 「私も〇〇〇した方がよかったと思います」
などの文章です。
批判や攻撃を受けた時の3つの反応の違いをまとめると以下のようになります。
- そこに踏むとどまり言い返す:言い争いになり、お互い傷つくケースが多い。
- その場を逃れて攻撃の矢をかわす:恥をかいたり、面目を失うケースが多い。
- 相手を無力化する:相手と対立することなく、相手の批判のパワーを弱める。
集団生活を営む会社、学校あるいは家庭において、武装解除法により相手と絶対的な対立をしない方法を学ぶ事も、自分がネガティブな感情に陥らないようにするために大切です。
※このシリーズでは、デイビッド・D・バーンズ氏、アーロン・T・ベック氏の研究、著作を参考にしています。