私達は自分の心が自分にとって正しい認識をしていると思いがちですが、実は違います。心は嘘をつきます。今まで育ってきた環境や、現在暮らしている社会、溢れんばかりの情報、周囲の人々の言葉などで、嘘や事実でないことを心が信じ込み、それをもとに行動や考えを決めてしまうことがたびたび起こります。
損失回避バイアスも、私達の心を惑わせる心理です。
Loss Aversion Bias:ロス・アバージョン・バイアス。損失を回避したいと思う心理です。
行動経済学や心理学の研究によると、人間は同じ価値の物であれば、失う方が得る事の2倍苦痛を感じるとわかっています。
人間が原始の時代を生き延びるためには今持っている物(仲間や食べ物や飲み物など)を失うことは生存の危機、すなわち死に結び付いていました。ですから私達の脳には「失う事を避ける」本能が埋め込まれています。
損失を回避しようとする行動事態は悪いことではありませんが、客観的事実を歪めてしまうほど損失回避バイアスが大きくなると、自分にとってメリットになる行動を妨害しかねません。
コインを投げて表が出たら1000円あげる。裏が出たら1000円失う。コインの表が出るか、裏が出るかの確率は50%:50%。
さあ、あなたはこのゲームをしようと思いますか?
多くの人がこのゲームをしようと思いません。50%の確率で1000円失うという損失の危険に心が捕らわれるからです。
この損失回避バイアスは、投資の世界でよく現れます。
あなたが過去3年株価が着実に上がり続けいるA社の株と、過去3年株価がずっと下がり続けているB社の株を持っているとします。A社の株かB社の株か、どちらかを売却する必要があります。どちらの株を売却しますか?
この問いかけをすると、多くの人はA社の株を売ると答えます。B社の株を売却したら損失が出るからです。しかし、将来の資産形成のことを考えたら正解はB株を売却することです。下がり続ける株を保有していてもしょうがないですし、上がり続けているA社の株は将来の資産形成に役立つ可能性が高いからです。
(もちろん、実際にはA社、B社の会社の財務諸表や経営戦略を詳しく分析してから決定する必要がありますが)
損失を被ることを避けたい。この心理は、人間関係や生活習慣にも現れます。
お腹がいっぱいだけれど、まだお皿に食事が残っている。これを捨てるのは惜しい。無理してでも食べよう。
5年間も交際してきた恋人。一回浮気をしたからといって失うのは惜しい。5年間も時間を一緒に過ごしてきたのだから。
こんな風に損失回避バイアスが働きます。
不適切な損失回避バイアスから脱するために、前回「サンクコスト」で述べたように、過去ではなく、今これからの未来に目を向けることです。
満腹になった今この時点から、更に食事を食べることが、自分にとってメリットになるのか、否か。
浮気をした恋人と、今これからも共に過ごすことで、自分は本当に幸せになるのか?
正しい損失回避の思考であればよいのですが、歪められたバイアス(偏った考え)によった損失回避は、事実を冷静に、客観的に理解することを妨げます。
人間は損失を回避しようとする生き物であることを念頭において、自分の判断が歪められていないか気をつけましょう。
※University of Michiganの講義「Mindware: Critical Thinking for information age」を参考にしています。