ポジティブ心理学を打ち立てた心理学者、マーティン・セリグマン博士。従来の心理学が精神的に問題を抱えた人を治療するための学問だった、つまりマイナスをゼロまで回復させる事にフォーカスしていたのを、普通の人が今よりももっと幸福や充実感を感じるよう、つまりゼロからプラスに上昇していく事に焦点を移していったのがポジティブ心理学です。セリグマン博士は、同僚達と共にポジティブ心理学の研究に打ち込み、実証的研究を経て、数々のポジティブ心理学の名著を書いています。
ポジティブ心理学によって、心理学がフロイトやユングの呪縛から解き放たれたといってもよいでしょう。普通の人々が抱えている日常的な問題(失望、怒り、悲しみ、心配、不安等)にどう対処して、幸福感を感じられる人生にしていくのかの具体的な方法を、実証研究に基づき提唱している事は、彼の偉大な功績です。
そのポジティブ心理学の大御所、マーティン・セリグマンが代表作『Learned Optimism』(日本語版では『オプティミストはなぜ成功するのか』)で語っている言葉であり、セリグマンの研究を貫いている言葉でもあります。
マーティン・セリグマン
Optimism can be learned.
楽観主義は学習して身に付けることができる。
Optimismオプティミズムを訳すと楽観主義になりますが、これは「すべてうまくいくさ」と能天気に思っている事ではありません。「物事はよりよく変えていける。そのために自分が何かできる事がある」と信じる心持です。
楽観的か、悲観的かは、遺伝子や親や育った環境によって決定されるもので、変えられない。そのような考え方は間違っており、後天的に、後から、楽観主義を学び身に付けることができるのだと、当時の心理学においては画期的な発見であり、名言でした。つまり、これまでがどうであれ、私達は今これから楽観主義になる方法を学び身に付けることが可能なのです。過去がダメだったからといって、諦めなくてもよいのです。
楽観主義が生きていく上でなぜ大切なのかについては「レジリエンスを使って自分を変えていく方法➁ 現実的な楽観主義を持つことが重要です。」で説明していますので、参考にしてみて下さい。
楽観主義を学習する具体的な方法については「レジリエンスを身につけるワーク」シリーズで紹介していますが、セリグマンが最も推奨している方法は、
自覚:自分のカタストロフィックな(非現実的で悲観的な)考えを認識する。
反論:その考えに対して3つのシナリオを作って、論理的に反論する。
行動:もっとも起こりそうなシナリオに対して自分ができる事をする。
です。
詳しくは「レジリエンスを身につけるワーク⑩ 3つのケース策定をしましょう。」で紹介しています。3つのケースとは、①ワースト・ケース最悪の事態、➁ベスト・ケース最善の事態、➂プロバブル・ケース:最もありえそうな事態です。
セリグマン自身、コロナウィルスが蔓延していた2020年、未知のウィルスに脅え、考えがどんどん悲観的になっていったそうです。「自分はコロナにかかって死ぬだろう」とまで考えたそうです(彼は70歳を超えています)。それで彼は、楽観主義を自分で再学習するために上記の方法を実践してみました。
自覚
彼は自分が非現実的で悲観的な最悪シナリオばかり考えている、つまりカタストロフィックな考え(思考のトラップともいいます)に囚われていると自覚します。
反論
そして、彼はコロナウィルスについての客観的なデータ収集を行い、3つのケースを策定します。
①ワースト・ケース→自分がコロナにかかって死ぬ
➁ベスト・ケース→コロナにかからず元気でいる。
➂プロバブル・ケース→コロナにかかるかもしれないが、回復する。
行動
プロバブル・ケースになるよう「コロナにかかるかもしれない」ので、コロナにかからないように自分ができる対策は何かを調べて、対策を実行する。もしコロナにかかった場合はどうしたらよいかを調べて備える。このような行動を彼は取りました。
結果的にはセリグマンはコロナにかからず元気に生き延びています。
私達も悪い結果や恐ろしい未来しか思い浮かばないような時は、考えが非現実的なほど悲観主義になっている事を自覚し、そこから離れて楽観主義の考え方にシフトできるよう、自覚→反論→行動のプロセスを取ってみましょう。
※Harvard University Arthur Brooks 「Managing Happiness」の講義を参考にしています。