「チェンジを起こすためのワーク① 変化を妨げる要因 REDUCEを知る。」で説明したように、人間が変化や新しい挑戦を受け入れるためには、変化に対する障害REDUCEを減らす、あるいはなくす事が有効です。
REDUCEのEはEndowment:エンドーメント、凝り固まった素質を表します。具体的に言うと現状や古い物に固執して変化を避ける性質の事です。
エンドーメントを和らげて、新しい変化を受け入れるようにする方法の一つとして、エンドーメントを逆手にとって使う方法があります。「Frame new things as old」でNew新しい事をOld古い馴染のある事でフレームし直す事、捉え直す事です。
変化や新しい事はなかなかスムーズに人々に受け入れられないものです。人々は慣れ親しんだ古い物に執着しますし、現状のままでいることに居心地よいと感じる傾向がありますから、変化を主張しても始めから積極的に受け入れる人は少数派でしょう。
そこでこの古い物に対する愛着、固執、つまりエンドーメントを、新しい変化を受け入れる触媒として使う事を考えてみましょう。
Backを入れることで成功したBREXITキャンペーン
この手法を使って大成功したのはイギリスのEU離脱、BREXITの政府のキャンペーンです。
当時イギリスを率いていたジョンソン首相はBREXITを推進していましたが、EU離脱か否かの国民投票を前にEU離脱に投票してもらうためのキャンペーンを行いました。そのキャッチフレーズは当初
Vote Leave, Take Control
(EU離脱に投票しよう、コントロールを自分達の手に取ろう)
でした。しかし市場調査の結果を見ても、あまり思わしい効果があげられませんでした。
そこで、政府側は
Vote Leave, Take Back Control
(EU離脱に投票しよう、コントロールを自分達の手に取り戻そう)
に変更。Backを入れたのです。これが大変効果的で、イギリス国民へのアピール力が大きかったのでした。
キャッチフレーズだけでイギリス国民がEU離脱を選択したとは思いませんが、政府のキャンペーンのキャッチフレーズはイギリス中のあらゆる場所に掲示され、メディアにも露出しましたので、その効果は大きかったでしょう。
EU加盟前はイギリスはEUの干渉なしに自分達でうまくやってきた。その古きよき時代を取り戻そう。かって自分達が持っていたコントロールを取り戻そう。そう、このキャッチフレーズはイギリス国民に訴えたのです。
EU離脱という大きな変化の前に、古い物、かって自分達が持っていた物にフォーカスを当てたのです。
EU離脱は新しい変化ではない。EUに加盟していなかった、自由があった時代のイギリスにBack(回帰)するのだ。そのメッセージが、新しいキャンペーンでは有効だったのです。
この「NewをOldでフレームし直す」手法は、政治家がキャンペーンでよく使います。
トランプ元アメリカ大統領が「Make America Great Again」というキャッチフレーズをよく使いますが、これもAgainと入れることで、勝手の偉大だったアメリカに回帰しようと、古い物へのエンドーメントを刺激する手法です。
Back to basics(基本に回帰しよう)
Return to the root(源に戻ろう)
というエンドーメントを刺激するフレーズも、よく政治キャンペーンで使われます。
新しい作業プロセスをチームに受けいれてもらうために
この手法は職場のチーム運営にも活用できます。
業務ミスが続いたチームで、業務改善を行う事になり、新しい作業プロセスを導入する事になったとします。これまでの作業よりも手間も時間もかかる事になり、チームメンバーは不満そうです。しかし、業務ミスをなくすためには、これまでの作業プロセスを変える必要があるのです。
そこでチームリーダーは、NewをOldでフレームし直す事をしてみます。新しい作業プロセスを受けいれてもらうために、そして積極的に新しいプロセスで作業してもらうために、かって自分達のチームが業務ミスがなかった優秀だった状況に戻ろうと言い換えるのです。
- 自分達のハイクオリティを取り戻そう(Obtain again our high quality)
- 自分達の優れた正確性を取り戻そう(Get back to our excellent precision)
新しいワークプロセスの導入ではなく、かって自分達がそうであった状態に回帰しようとアピールするのです。
チーム内の新しいプロセスへの抵抗はかなり減ることでしょう。
エンドーメントを利用して変化を抵抗なく受け入れてもらう手法は、組織のリーダーにとって有効で重要なチームマネジメントのスキルになります。
※University of Pennsylvania,Jonah Berger「Removing barrier to change」の講義を参考にしています。