STDはSelf Determination Theoryの略で、日本語では自己決定理論と訳されます。人間が行動する際のモチベーション(動機)を研究し、どのようにモチベーションアップをしていけばよいかを論理的に示しています。
前回モチベーションには「外発的モチベーション」と「内発的モチベーション」の2種類があり、「内発的モチベーション」の基づく行動の方が、パフォーマンスが上がり、継続性もあると説明しました。
しかし、仕事の場合、ほとんどの行動の動機は「外発的モチベーション」によるもので、自分から仕事をしたくて仕方ない、仕事をするのが楽しくて仕方ないという「内発的モチベーション」による行動は、一般的には少ないでしょう。でも、「内発的モチベーション」を自分の中に培うために、仕事の環境を整える事は可能です。
「内発的モチベーション」を培う重要な3要素「自律性」「有能さ」「関係性」を、仕事の中に見つけ出していくのです。
例を挙げて説明していきましょう。
「自律性」:自律性のある時間を仕事に持ち込む。
ほとんどの仕事が上司に指示されたもので、仕事をする時間もすべて他人や組織が決定していて、自分はただ指示とルールに従うだけ・・・それでは自律性はありません。しかし、今の仕事は本当に自律性はゼロでしょうか?自分でコントロールできる部分は皆無でしょうか?
たとえば労働時間。9時から17時までのように仕事の時間がはっきり決められている場合、その労働時間は仕事をしなくてはなりませんが、だからといって自律性はゼロでしょうか?例えば、せめて残業しなくて済むように、仕事を開始する時間を早める「自由」は自分にあります。あるいは、お昼休みに何をするかの選択肢は自分にあります。
まず自分がコントロールできる時間で、自律性を培ってみましょう。
残業時間をなくす、あるいは終業時間を早めるために、朝1時間早く仕事を始める事によって、自分は仕事の時間を部分的ではありますがコントロールしています。
あるいはランチタイムに何をするかを自分で決めます。残業時間をなくすためにランチタイムを半分で切り上げて仕事の続きをする。ランチタイムは英語の勉強に当てる。ランチタイムに尊敬する先輩の話を聞く。幾つかの選択肢の中から自分で選ぶことができます。
まず1時間。朝の時間でもランチタイムでもよいので、1日1時間、自律性を持てる、自分がどう過ごすか決められる仕事時間を作りましょう。その1時間は、自分がする事をコントールできるわけで、それによって、自分の他の時間がどのような影響を与えるか、観察してみましょう。
自律性のある1時間によって、他の仕事時間にも効率性やパフォーマンスがアップするなど好影響が出てきたら、自律性のある1時間を2時間、次は3時間と、だんだんと時間を長くしていってみましょう。自律性のある時間が長くなるにつれ、仕事との向き合い方に変化が出てくると思います。
有能さ:ライフスキルを身に付けるために仕事を活用する
仕事をする事は何等かのワザ、能力、スキルを身に付ける事です。レジ打ちかもしれませんし、エクセルを使うことかもしれませんし、人と話す技術かもしれません。その仕事だけにしか生かせないスキルという物はあまりなく、一つの仕事を通して得るスキルは、人生を生きていく上で多くの場合役立つのです。
今の仕事に情熱ややる気がわかないという場合でも、今の仕事を通じて、自分が生きていくために役立つスキルを習得しようと考えましょう。人生はたいてい困難やトラブルと遭遇し、それらと渡り合っていかなくてはなりません。その時に役立つライフスキルを、今の仕事を通じて得ようという視点で、仕事をとらえ直し、そのスキルを磨くことに情熱を傾けてみましょう。
例えばエクセルを頻繁に使う仕事をしているとします。エクセルを使えたからといって、人生を生き抜いていくために役立つのか?と思うかもしれませんが、大いに役立ちます。自分に家族がいる、あるいはいつか家族を作る時に、家計のやりくり、資産運用などはエクセルを使えれば、効率的に管理できます。家計をきちんと管理する事は、人生で大変重要です。エクセルでグラフ作成ができれば、家計管理も、見やすく、わかりやすくできますし、他の家族のメンバーにも説明して節約などの協力を得やすいでしょう。子供がいれば、子供達に自分のお小遣いの管理をエクセルを使って行うよう教える事もできます。
お金を管理するスキルは一生ものです。自分だけでなく、家族にとっても重要なスキルです。エクセルを駆使する事で、かなりのレベルまで家計や資産運用の管理は可能です。今の仕事を活用して、エクセルを使いこなすスキルを身に付けようとしてみましょう。仕事を通じて一生モノのスキル、ライフスキルを身に付けていく。そのスキルを磨いて、レベルアップさせていく。そのために仕事をしている。そう考えれば、仕事への向き合い方が少し変わると思います。
「関係性」:感謝される行動をする
人間と人間の間を強く、あるいは素早く結びつける感情の一つは感謝です。「ありがとう」という気持ちです。今の仕事において、人に感謝される部分はありますか?大抵の仕事には、何かしら人のためになる部分があるはずです。1日に1回は人から感謝される、あるいは誰かの役に立つ仕事をしてみましょう。「感謝されたい」という思いよりも、感謝されること、感謝される行動を行う自分を認識する事で、自分を肯定できますし、相手との関係をスムーズに構築できます。
上司から大量に資料のコピーを頼まれた時。忙しいのに困ったと感じるとは思いますが、上司から「ありがとう。助かったよ」と感謝されれば、自分は人から感謝を受ける仕事をしたと認識できます。
後輩が仕事のミスで落ち込んでいたら、話を聞いてあげて、自分の失敗談を話して励ましてあげる。後輩は「ありがとうございます」と感謝するでしょう。自分も後輩が元気になってよかったと優しい気持ちになるはずです。
お客様に「いい商品を提案してくれてありがとう」と言われた時。一生懸命プレゼンをしてよかったと思うでしょう。
失敗ばかり、嫌なことばかりある1日もあるかもしれませんが、そういう日こそ、人のためになる事、人に感謝される事を、職場で1つ行ってみましょう。
あるいは、人から感謝される行動を、1日に幾つできるか、カウントしてみましょう。自分への挑戦です。
人から「ありがとう」と言われる回数が多いほど、あなたと人との関係性は広まり、強まっていくはずです。
仕事の種類が何であれ、何らかの自律性、有能さ、関係性を仕事の中に見つける事は可能だと思います。それを見つけていく行動により、仕事に対して「内発的モチベーション」が養われていくでしょう。
※University of Rochester, Richard Ryanによる「Introduction to Self Determination Theory」の講義を参考にしています。