STDはSelf Determination Theoryの略で、日本語では自己決定理論と訳されます。人間が行動する際のモチベーション(動機)を研究し、どのようにモチベーションアップをしていけばよいかを論理的に示しています。
モチベーションには「外発的モチベーション」と「内発的モチベーション」の2種類がありますが、「内発的モチベーション」の基づく行動の方が、パフォーマンスが上がり、継続性もあります。
「内発的モチベーション」を培う重要な要素は、「自律性」「有能さ」「関係性」の3つです。前回は自分が仕事をしていく中で「内発的モチベーション」を培う方法を説明しました。
今回は、チームメンバーあるいは部下に「内発的モチベーション」を培ってもらうよう誘導する方法を紹介しましょう。「自律性」「有能さ」「関係性」をメンバーに与えるような行動を取っていくのです。
「自律性」:メンバーに選択肢を与える。
チームメンバーや部下に仕事を依頼する時には「~をしなさい」と命令するのではなく「~するために、3つの方法があるけれど、どれが一番効率がよいか考えてみて」「~を達成するために、どういう方法があるのか提案してみて」などと、メンバーに選択肢を与える、あるいは自分で考えて選ぶ事ができる余地を与えると、メンバーの自己決定の裁量が増えて、自律性が培われます。自律性が培われると、メンバーの仕事への関わり合い方は受動的から能動的になり、仕事にやりがいを感じてモチベーション・アップに繋がる傾向があります。
「有能さ」:メンバーが少し難しいと感じるタスクを与える。
メンバーには簡単でいつも同じ作業ばかり与えるのではなく、少し難しい、新しいスキルや知識を身に付けないと遂行できないような仕事も与えてみましょう。ちょっと難しそうだな、大変そうだなと感じるくらいの仕事をこなす事によって、メンバーは自分のスキルをアップできますし、達成感も味わえます。
例えば顧客リストを作成する仕事をメンバーに依頼する時に、ただ五十音順あるいは会社名ごとに顧客リストを作るのではなく、業務上の重要度という観点から顧客をグループ分けしてリスト化してみてもらうというプラスアルファの仕事を依頼すると、単なるリスト作りでなくなります。どのように業務上の重要度を測るのか、どのようにグループ分けするのか、メンバーに考えてもらいましょう。
「関係性」:メンバーの仕事内容には必ずフィードバックを返す。
メンバーが依頼した仕事を完了した時には、必ずフィードバックをしましょう。よかった点はほめ、悪かった点は改善点としてアドバイスしましょう。頼んだ仕事をするのが当然と無反応なのが一番よくありません。「ずいぶん早く仕上げてくれたのね」「とても見やすく工夫された資料だね」あるいは「誤字があったから次からは提出前にもう一度見直ししてからにして下さいね」「わかりにくい表現があるから、ここを書き直してみてね」などと、フィードバックを返しましょう。フィードバックを返す中で、メンバーとの間に会話が生まれ、相互理解が深まります。
また、依頼した仕事を仕上げてくれたメンバーには、「ありがとう」と感謝の言葉を必ず伝えましょう。たとえ、その仕事の出来が悪かったとしても、まずは「頑張ってくれてありがとう」と仕事を完了した事への感謝をメンバーに伝えてから、仕事の内容についてフィードバックをしましょう。
前回も説明しましたが「ありがとう」は人と人との関係性を強化する言葉です。「ありがとう」と言われて嫌な気持ちになる人はいません。部下は上司の頼んだ仕事をして当たり前と思わずに、部下にも「ありがとう」を伝えましょう。
「内発的モチベーション」を自分や仕事メンバーに培うための方法を幾つか紹介しましたが、仕事の現場では「外発的モチベーション」の方が圧倒的に多いと思います。次回は「外発的モチベーション」をどう活用していくかについて説明していきたいと思います。
※University of Rochester, Richard Ryanによる「Introduction to Self Determination Theory」の講義を参考にしています。