ポジティブ心理学の第一人者であるペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン教授と、職場でのウェル・ビーイングな働き方を研究しているBetterUpLabのガブリエラ・ローゼン・ケラーマン博士が共著で2023年1月に出版した本『Tomorrow Mind: Thrive at Work with Resilience, Creativity and Connection』。訳すと「トゥモローマインド:レジリエンス、クリエイティビティ、コネクションで仕事を通じて充実して生きる」ということになります。
Tomorrowmindを構築する5つの要素PRISM。
Sはサポート力になります。「Empathyエンパシー 共感能力」と「Compassionコンパッション 思いやり」を使うことで職場でのRapportラポート「相互信頼や相互理解」が築かれます。しかし職場のラポートを築くには「時間」「場所」「US/Them分類」という3つの障害があります。
前回は「時間」という障害を克服する方法を紹介しましたが、今回は「場所」という障害を克服する方法を紹介しましょう。
働く場がグローバルになり、リモートワークが拡大して、一つのオフィスに多くの社員が集まり一日中一緒の場所で仕事をするという状況が減ってきています。働く場所の固定化は、今後ますますなくなっていくでしょう。これは世界中の仕事仲間と繋がることができる、場所を選ばず働くことができる、ワークライフ・バランスを取りやすくなるなど、メリットもあります。一方で、職場の同僚との繋がりを希薄にしていくデメリットもあります。
そのような変化の中でも職場のラポートを深めるためには、シンクロニシティが重要になります。シンクロニシティSynchronicityは「共時性」と訳されます。場所に関係なく、同じ経験や感情を共にリアルタイムで経験することです。
ポジティブ心理学研究の第一人者であるソニア・リュボミアスキーのPositive Activities &Well-being LaboratoryとBetterUpLabが共同で職場のポジティブ・リソナンスを測る調査を行いました。ポジティブ・リソナンスPositive Resonanceとは、ポジティブ感情の反響のことで、ポジティブな感情を共有したり、関心を一つにしたり、互いの結びつきを感じることです。
どのような同僚との関わり合いが、このポジティブ・リソナンスを最大化するか調査が行われました。結果として、シンクロニシティが重要であると判明しました。たとえ同じ場所にいなくても、リアルタイムに時間を共有している事が、ポジティブ・リソナンスには重要だとわかったのです。
対面であろうと、電話であろうと、ビデオ会議であろうと、構いません。ただ、リアルタイムで同じ時間を共有している事が重要だったのです。
逆に、メールやSNSなど、「後から読む、見る」という行為は、共時性がないため、ポジティブ・リソナンスの効果が低いとわかりました。メールは、職場の連絡手段として頻繁に使われていますが、メールは相手の反応がわからない、文面の裏をかんぐりやすい、長く書いてしまう傾向があるなど、ポジティブではないリソナンスを生む傾向があるとわかったのです。
同じ経験、同じ時間を共有するということが職場のポジティブ・リソナンスに重要であり、それが職場のラポート、相互信頼、相互理解に有効だとわかりました。必ずしも同じオフィスにいなくても、世界の遠くに離れていたとしても、リアルタイムで時間を共有することで、ラポートは強められるのです。
メールやLINEは仕事の連絡手段としては大変便利ですが、それだけではなく電話やビデオ会議も織り交ぜて、職場のコミュニケーションを進めましょう。リモートワークにおいて、メール連絡だけではなく、ZOOMなどを使ってオンライン会議を開催したり、電話会議を行うことは、職場のラポート形成には大変重要なのです。
※Martin Seligman, Gabriella Rosen Kellerman『TomorrowMind: Thrive at Work with Resilience, Creativity and Connection』を参考にしています。