ポジティブ心理学の第一人者であるペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン教授と、職場でのウェル・ビーイングな働き方を研究しているBetterUpLabのガブリエラ・ローゼン・ケラーマン博士が共著で2023年1月に出版した本『Tomorrow Mind: Thrive at Work with Resilience, Creativity and Connection』。訳すと「トゥモローマインド:レジリエンス、クリエイティビティ、コネクションで仕事を通じて充実して生きる」ということになります。
Tomorrowmindを構築する5つの要素PRISM。Sはサポート力になります。「Empathyエンパシー 共感能力」と「Compassionコンパッション 思いやり」を使うことで職場でのRapportラポート「相互信頼や相互理解」が築かれます。しかしラポート構築には「時間」「場所」「US/Them分類」という3つの障害があります。
前回「US/Them分類」という障害を克服する方法を4つ紹介しましたが、「インディヴィジュアリゼーションindividualization:個人化」と「リカテゴライゼイションrecategorization:再分類」は顧客との間にラポートを築くためにも有効な方法です。
「インディヴィジュアリゼーションindividualization:個人化」は「アウト・グループという集団として色分けするのではなく、一人の人間としての個性や考え方を認識すること」ですが、顧客を会社Aのグループに属する人ということではなく、「〇〇さん」という個人の特性を見ようとしてみましょう。
そして、「リカテゴライゼイションrecategorization:再分類」によって、〇〇さんと自分との共通点はないか探してみましょう。共通点があれば、その点を強調して会話を進めるのです。
例えばAさんは取引先企業XのBさんに新しい商品の紹介をして契約を獲得したいと考えているとします。
BさんはXという取引先企業の社員であり、商品部の課長です。男性です。年齢は35歳前後です。これではインディヴィジュアリゼーションには情報が足りません。それでミーティングの前に、Xという企業について、そしてBさんについてもっと情報を集めましょう。初対面でないならば、前回紹介したスモールトークによって普段からBさんの特徴がわかるような情報を集めておきましょう。
Aさんは以下のような情報をミーティングの前に集めたとします。
- Bさんはサッカーが好きで、息子2人は地元のサッカー教室に通っている。
- Bさんは滋賀県大津市の出身で、X社に就職してから東京に来た。
- Bさんは体を鍛えていて、週末にはジムに行き運動を欠かさない。
- X社は自然保護活動に力を入れていて、海辺の清掃ボランティアを社員が定期的に行っている。
- X社は顧客満足度で業界ナンバー1に選ばれており、顧客向けサービスの拡充に尽力している。
Bさんのインディヴィジュアリゼーションとしては
- 健康的。
- スポーツが好き。特にサッカー。
- 2人の息子もサッカーが好き。
- 東京出身ではなく大津の出身。琵琶湖の近くと思われる。
という特性が見えてきます。
AさんはBさん、あるいはX社との共通点を見出そうとします。例えば・・・
- AさんもBさんもサッカーが好き。
- AさんもBさんも運動が好き。
- 自然保護に関心がある可能性が高い。
上記に基づいて、Bさんへの話し方のフォーカスを変えていきます。
- 自分もサッカーが好きで、運動する事が好きだと伝え、「サッカー好き」「運動好き」というグループにAさんもBさんも属していると認識させ、親近感を高める。
- 新商品を使うことで、どのようにお客様の健康面をサポートするかをプレゼンに入れる。
- お客様がいかに健康や運動不足の解消に関心が高いかのデータを資料に入れる。
- 自然や湖、緑をイメージさせるような緑や青などの色をプレゼン資料で多用する。
AさんとBさんの結びつきを「サッカー好き」「運動好き」というイン・グループのメンバーであると認識させることで、AさんとBさんの間のラポート、相互理解、相互信頼を構築しやすくなります。
また、BさんやBさんが勤めるX社の関心事を、Aさんも共有している事を示すことでも、ラポートを築きやすくなります。
これを可能にするためには、事前の情報収集が重要です。実は、ミーティングは始まる前に始まっているのです。相手の情報を事前にできるだけたくさん収集するようにしましょう。そして自分と相手との結びつきや共通点を探して、コミュニケーションの中に入れるようにしていきましょう。
※Martin Seligman, Gabriella Rosen Kellerman『TomorrowMind: Thrive at Work with Resilience, Creativity and Connection』を参考にしています。