ポジティブ心理学の第一人者であるペンシルバニア大学のマーティン・セリグマン教授と、職場でのウェル・ビーイングな働き方を研究しているBetterUpLabのガブリエラ・ローゼン・ケラーマン博士が共著で2023年1月に出版した本『Tomorrow Mind: Thrive at Work with Resilience, Creativity and Connection』。訳すと「トゥモローマインド:レジリエンス、クリエイティビティ、コネクションで仕事を通じて充実して生きる」ということになります。
Tomorrowmindを構築する5つの要素PRISM。
Sはサポート力になります。「Empathyエンパシー 共感能力」と「Compassionコンパッション 思いやり」を使うことで職場でのRapportラポート「相互信頼や相互理解」が築かれます。そのために重要な手段の一つとして、ディープ・リスニングがあります。
ディープ・リスニング Deep Listeningとは、
- その場に集中し(ながら聞きや流し聞きではなく)
- 決めつけや批判的な態度ではなく寛大な態度で
- 時間に急かせられることなく
- 相手が考えや感情を表すスペースを作る
ことです。
相手に共感し思いやりを示す事が大切ですが、相手の話を聞いて感情的になることはお勧めできません。感情的になると、不適切な解決法を示したり、問題解決へチャンレンジするチャンスをつぶしてしまうことに繋がりやすいのです。
コミュニケーションの専門家によると、リスニングには5つのタイプがあります。
- Discriminative 識別:聞いた音をそのまま認識するために聞く。
- Comprehensive 理解:ニュースを聞くように、聞いた話の中身を理解するために聞く。
- Critical 批判:聞いた話の価値を判断するために聞く。
- Empathetic 共感:相手の考えや感情を共有するために聞く。
- Appreciative 賞賛:音楽を聞くように喜びを得るために聞く。
職場のラポートを構築するためには、④「共感」を持って聞く事が大切です。しかし、一般的に私達は「リスニング」の方法をわざわざ勉強しませんし、授業で教わることもありません。「リスニング」の方法を学んだという人は、心理学関係に従事する人以外はあまりいないでしょう。でも、「共感をもって聞く」リスニング方法は、練習して身に付けることができます。
次の6つのポイントを押さえて、相手の話を聞くことで、「共感をもって聞く」が可能になります。
- 職場の同僚の話を、自分の配偶者や親友の話を聞くように聞く。
- 相手が会話の大部分を話すようにする。自分が口を開くことは少なくする。
- 相手が話している間は遮らない。うなずきや短い言葉の反応は返していい。
- 相手が話すのをやめてしまったら、オープン・クエスチョンを聞く。答えがYESかNOかで終わらない質問がオープン・クエスチョンです。「次に何が起こったの?」「その時あなたがどのように感じたの?」が典型的なオープン・クエスチョンです。
- 相手の話を理解しているか確認するために、自分が聞いた事を繰り返す。これは相手に、自分の話を第三者(聞き手)の口を通じて聞くことにより、相手が客観的に状況を見やすくなります。また聞き手も、相手の感情や考えを想像しやすくなります。
- 相手が沈黙しても許す。相手が途中で黙ってしまっても、待ってあげましょう。相手に「時間」というギフトを聞き手は与えていることになります。
これらディープ・リスニングの知識とスキルは、部下を持つ職場の管理職にとって特に重要です。部下達の考えや気持ちを理解しつつ、自ら考え動く目標達成に向かって働く意欲を促していかなければなりません。
少し前の会社組織はヒエラルキーがはっきりしていて上司がやれといった事をやっていればよかったですが、現代のフラット化した組織では、社員がそれぞれに考え自ら行動し、相互に影響し合っていく事が必要になっています。上司は部下にただ命令していればよい、部下はその通りに働いていればよいという時代は終わりました。上司と部下、あるいは同僚同士、相互に影響し合い、相互信頼と理解のもと、活発な意見やアイディアが出て、同一の目標に向かって一致団結して動いていけるよう、組織を向かわせていかなければなりません。そのために、ディープ・リスニングは重要な役割を果たします。
※Martin Seligman, Gabriella Rosen Kellerman『TomorrowMind: Thrive at Work with Resilience, Creativity and Connection』を参考にしています。