イギリスのブリストル大学の教授ブルース・フッド氏(Bruce Hood)が出版した『The Science of Happiness: Seven Lessons for Living Well 』には、人はどうしたら幸せだと感じられるか?について様々なアドバイスが書かれています。イギリス版ウェル・ビーイングのヒントと言えるでしょう。ポジティブ心理学や発達心理学と重なる部分も多いのです。
フッド氏の本の中から、私達の毎日の生活の中で実践しやすい「幸せだと感じる方法」を紹介していきましょう。
今回はフォーカリズムに陥らないようにする事の重要性です。
フォーカリズム(Focalism)とは一点集中主義と訳せるでしょう。一つの事だけに関心や注意を寄せることです。人生には様々な側面があるにもかかわらず、たった一つの事(職場の上司との関係や、配偶者との関係、あるいは一個の試験結果など)に自分の注意が集中し、その事だけしか考えられない、あるいはその事を中心としてしか世の中が見られなくなる心理傾向です。
この心理状態になると、冷静で論理的な計画や未来の展望が考えられなくなります。アフェクティブ・フォーカスティング(Affective forecasting)と呼ばれる「感情予測」、感情に基づいてしか先行きの事を考えられなくなる心理に繋がります。
一つの出来事が自分の未来にどのように影響するかということを、その出来事だけをオーバーに考えて、他の要素は排除して考えてしまう心理状態です。
例えば、職場の上司と折り合いが悪い、気が合わないという状態があるとします。フォーカリズムに陥ると、その事だけで会社や職業の全体を考えてしまいます。
- 上司とうまくいっていないから自分は仕事のチャンスに恵まれない
- だから昇進もできない。この職場にいては自分の未来はない。
- 上司は自分の悪口を回りに言いふらしているに違いない。
- 自分が周囲から評価されないのも上司のせいだ。
- あの上司がいる限り、自分は不幸の固まりだ。
- 自分は仕事ができない奴として、ずっと低評価で終わるに違いない。
- 低評価ならば給料も増えないし、恋人と結婚できない。
- うだつのあがらない自分に恋人は愛想を尽かして、そのうちに去るだろう。
- 今の恋人に見捨てられたら、自分は一生結婚できないだろう。
というように、「上司と折り合いが悪い」という一つの事に注意が集中しすぎて、それだけで自分の将来がお先真っ暗に感じられるのです。
客観的に見ると、その上司がずっと自分の上司でいることは通常の組織ではありえません。いくら折り合いが悪い上司といっても、いつかは異動になるでしょう。自分が異動になるかもしれません。それに自分には結婚を考えている恋人がいて、その事事態は嬉しい事ですが、給料が上がらなければ結婚できないと思い込んでいます。給料が今より上がらなければ結婚しないと恋人に言われたわけでもないのにです。
このように一つの事にあまりにも心が独占されてしまうと、冷静で客観的な判断ができなくなり、未来の想像も歪んできてしまいます。
自分が一つの事をずっと考えて悩んでいるフォーカリズムに陥っていると思ったら、2つの行動を実践してみましょう。
「ちょっと待て」
「ちょっと待て」と自分に言ってみて下さい。芸人さんのツッコミのように、自分に「おい、おい、ちょっと待ってよ」と、ストップをかけます。自分のフォーカリズムの思考にストップをかけるのです。
友達だったらどう答えるか想像する
それから、同じ事を友達が言ったらどう答えるか、想像してみて下さい。自分の友達が「職場の上司と折り合いが悪くて、あの上司がいる限り自分の仕事はもう終わりで、昇進もチャンスもない。恋人とも結婚できないし、人生終わったも同然だ」と話したら、あなたはどう答えますか?
「そうだよねえ、もう人生終わりだよねえ」とは言わないでしょう。
- 「いやいや、その上司だって数年すれば転勤するでしょう?」
- 「そんなに嫌なら異動願い出せば?あるいは転職先を探せば?」
- 「その上司のどこが嫌なの?パワーハラスメントにあっているのではない?パワハラなら人事に言う手もあるよ」
- 「仕事のことはともかく、あんな素敵な恋人がいるのだから、人生捨てたものではないよ」
- 「今時、夫婦は共働きが多いし、自分のお給料が増えないからといって結婚できないってわけではないでしょう?」
このように、友達にならば、建設的で客観的な意見を言えるのではないでしょうか?
ですから、自分にも、友達にアドバイスするつもりで、答えてみましょう。
自分を第三者として扱い、話しかけることで、フォーカリズムの心理の呪縛から解き放たれることが多いのです。
※Bruce Hood著『The Science of Happiness: Seven Lessons for Living Well 』を参考にしています。