イギリスのブリストル大学の教授ブルース・フッド氏(Bruce Hood)が出版した『The Science of Happiness: Seven Lessons for Living Well 』には、人はどうしたら幸せだと感じられるか?について様々なアドバイスが書かれています。イギリス版ウェル・ビーイングのヒントと言えるでしょう。ポジティブ心理学や発達心理学と重なる部分も多いのです。
フッド氏の本の中から、私達の毎日の生活の中で実践しやすい「幸せだと感じる方法」を紹介していきましょう。
今回はミスウォンティングが引き起こす心理について説明しましょう。
ミスウォンティング(Miswanting)とは日本語でいえば欲求ミスあるいは欲求錯誤といえます。私達は〇〇があれば、あるいは〇〇であれば、自分は幸せになるだろうと未来を予測しますが、これがよく間違っているのです。将来予測を間違えて、自分を幸せにしない〇〇を誤って求める。これがミスウォンティングと呼ばれる心理現象です。
このミスウォンティングの代表的な現象が選択(Choice)です。
私達はたくさんの選択肢の中から自分が一番好む物を選びたいと思う傾向があります。たくさんの選択肢から選べた方が、ベストな選択をできると考えがちですし、「自分が選んだ」というコントロール感を得ることができると考えます。
しかし、意外なことに、たくさんある選択肢は、実は不幸の元になるのです。
多すぎる選択肢が私達に与えるストレスについては様々な実験が行われています。たとえばデパートで、買い物客は、30種類以上の異なるジャムやチョコレートが展示されていると、何も買わずに立ち去り、6種類のジャムやチョコレートを展示されると購入する傾向があるという調査結果があります。
あるいは社員がパリへの無料旅行をプレゼントされると大変喜びます。ハワイへの無料旅行をプレゼントされても大喜びです。しかし、自分で無料旅行の行き先をパリかハワイかどちらかを選ばなくてはならないとなると、喜びは減少します。ハワイを選んだ人は、パリに行ったらどんなに楽しかっただろうかと想像し、パリを選んだ人は、ハワイに行ったらどんなに海が素晴らしかっただろうかと想像し、どちらの行き先を選んだにしても、選ばなかった方を想像して、少し悔いるのです。
選択するという行為が、私達に比較することを強いて、それぞれの選択肢の利点よりもデメリットの方に意識を向かわせてしまうのです。そして自分の選択が正しかったか否か、間違った選択をしてしまったのではないかと心配し出してしまう傾向があります。後悔の念は、満足感よりも、私達の心に深く、長く、影響します。
そこで選択によるストレスを避けるために、次のような自分ルールを決めておくのも一つの方法です。
- 選択肢を最大5つまでにして、それぞれをランク付けして、ベストランクのものを選択する。
- 一度選択したら、後から「もっといいものが他にあった」などと、ネットでサーチしたり、調べることを止める。
- もし、自分の選択を悔いる気持ちが湧いてきたら、自分の選択と、選択肢のワーストランクのものを比べて、自分の選択の正しさに自信を持つ。
このように選択のマイルールを作って、多すぎる選択肢や比較癖から抜け出し、決定プロセスをシンプルにして、心に余計な負荷をかけないようにしましょう。
※Bruce Hood著『The Science of Happiness: Seven Lessons for Living Well 』を参考にしています。