イギリスのブリストル大学の教授ブルース・フッド氏(Bruce Hood)が出版した『The Science of Happiness: Seven Lessons for Living Well 』には、人はどうしたら幸せだと感じられるか?について様々なアドバイスが書かれています。イギリス版ウェル・ビーイングのヒントと言えるでしょう。ポジティブ心理学や発達心理学と重なる部分も多いのです。
フッド氏の本の中から、私達の毎日の生活の中で実践しやすい「幸せだと感じる方法」を紹介していきましょう。
前回、人生にコントロール感を取り戻すことの大切であり、そのためには楽観性を身に付けることが重要だと説明しました。その楽観性は後天的に身に付けることが可能で、そのための第一歩として自分の考え方の癖、思考のトラップに気づくことが肝要であると説明しました。
今回は自分が思考のトラップに陥っていると気づくための方法として、ABCDEを紹介しましょう。ABCDEは次の5つの単語の頭文字をとったものです。
A: Adversity 起きた嫌な出来事
B: Belief 自分の考え
C: Consequences 自分の取った言動
D: Dispute 反論する
E: Energize 自分を励ます
ABCについては「レジリエンスを使って自分を変えていく方法➂ ABCを練習して自分のBを探っていきましょう。」で詳しく説明していますので参考にしてみて下さい。
ポイントは、ノートなどに自分の手で書き出してみる必要があることです。A(悪い出来事)が起こった時に、紙に自分の手でB(自分の考え)とC(自分の取った言動)を書き出していくことで、普段意識していない自分の考え方の癖に気づくことができます。B「自分の考え」の中に、前回説明した「思考のトラップ」が埋まっていることが多いのです。
ABCまで書き出したら、次にD(反論する)です。
B(自分の考え方)やC(自分の取った言動)に、「思考のトラップ」に陥っていないか探ってみます。そして、反論できる余地がないか考えてみます。あるいは、違った見方や行動が可能ではないか考えてみます、そして、何か一つくらいこの状況から得られる教訓はないか、学べる知恵はないか探してみます。
ポイントは、自分ではなく、友人がこの立場に置かれたらどう励ますか、どう意見するかを考えてみることです。
例えば、試験に不合格したとします。これがA(悪い出来事)です。
B(自分の考え)は、やっぱり私は頭が悪い、いつも試験に失敗すると思います。
C(結果)は、自分にはもう無理だと落ち込み、やる気を失って、試験問題集を全部捨てようとします。
そこでD(反論)です。
- 「自分がいつも試験に失敗する」というのは事実ではない。合格した試験もある。
- カタストロファイジングの思考のトラップに陥っているようだ。
- 今回の試験は初めて受験した。まだ1回目を失敗しただけだ。
- もう一回だけチャレンジしてみればよいのでは?
- 不合格だったことには理由がある。どの問題で躓いたのか、復習してみよう。
- 効率的な勉強方法を、この試験に合格した友人Aに聞いてみよう。
- 考えてみると、今回試験勉強にあまり時間をかけられなかった。勉強時間を確保するために、一日の過ごし方を見直してみよう。
このように、Bに対して、いろいろ反論できる余地があります。
そこで次にE(自分を励ます)です。
- 試験に不合格で落ち込んだけれど、自暴自棄にならずに済んだ。
- 改善点が見つかった。
- もう一度チャレンジしてみようという気持ちになれた。
このように、Eでは自分が問題や困難な状況と向き合えたことを誇りに思い、悲観的になる自分や考え方をコントロールする事が出来た事をほめましょう。
ここまでくれば、思考のトラップから抜け出して、次は合格するかもという楽観性を持って、改善のための行動に踏み出せるようになります。
難しい状況に直面するたびに、このABCDEを繰り返すことで、自分の思考のトラップを見つけやすくなり、失敗したり落ち込んでも、そこから立ち直り、前向きに行動を起こすことができるようになっていきます。
自分ができることがある、自分で改善に向けて取れる行動がある、という事が、自分の人生にコントロール感を取り戻し、楽観性を身に付けていくことができるようになるのです。
※Bruce Hood著『The Science of Happiness: Seven Lessons for Living Well 』を参考にしています。