イギリスのブリストル大学の教授ブルース・フッド氏(Bruce Hood)が出版した『The Science of Happiness: Seven Lessons for Living Well 』には、人はどうしたら幸せだと感じられるか?について様々なアドバイスが書かれています。イギリス版ウェル・ビーイングのヒントと言えるでしょう。ポジティブ心理学や発達心理学と重なる部分も多いのです。
フッド氏の本の中から、私達の毎日の生活の中で実践しやすい「幸せだと感じる方法」を紹介していきましょう。
悩みをずっと繰り返し考えていたり、自分を批判し続けたり、抱えている問題についてひたすら悪いことばかり想像したり。心理学的にいうとルミネ―ションやネガティブ・バイアスが心や頭を支配すると、どんどん不幸や不満、不安が蓄積していきます。
そういう場合は、悩みや問題と心理的に距離を取る必要があります。これを心理的ディスタンスと言います。
フッド氏は心理的ディスタンスを取るために役立つフレーズを紹介しています。
まず、自分が今抱えている悩みや問題について、以下のフレーズで表現してみます。頭の中で考えてもよいですが、紙に書き出してみると、より鮮明に理解できます。
(フッド氏のフレーズは英語で書かれていますので、以下は私が訳したものです)
私は【①】について心配している。
なぜなら【➁】だから。
そしてそれが私を悩ませる。(あるいは怒らせる、落ち込ませる)
① は悩みや問題。
② は理由を入れます。
そして次に、次に、「私」の部分を、あなたの名前にして書き換えてみましょう。
〇〇は【①】について心配している。
なぜなら【➁】だから。
そしてそれが〇〇を悩ませる。(あるいは怒らせる、落ち込ませる)
主語を「私」から個人の名前に置き換えるのです。そうすると、第三者的な視点が入ってきます。
例を挙げてみましょう。
私は【昇進できないのではないか】と心配している。
なぜなら【私の営業成績は他の人よりも悪い】から。
そしてそれが私を落ち込ませる。
↓主語の置き換え
裕子は【昇進できないのではないか】と心配している。
なぜなら【裕子の営業成績は他の人よりも悪い】から。
そしてそれが裕子を落ち込ませる。
同じ内容を表現しているのですが、「私」を使って表現すると、否定的な気持ちが前面に出て、落ち込みの感情の中にただいるだけになります。
一方、「裕子」という名前を使って表現すると、その悩みと「裕子」の間に少し心理的距離ができます。悩みと主語を切り離すのです。
「裕子」は自分の営業成績が悪いから昇進できないと落ち込んでいます。そんな「裕子」がいたら、あなたは何と声をかけますか?
- 今回昇進できなくても次がある。
- 営業成績が悪くて昇進できないなら、当然のことで、不条理なことではない。
- 営業成績は悪いかもしれないけど、どう具体的に悪いのか?
- 昇進することがそれほど大事なのか?
- 営業成績が悪いなら、改善するために何かした方がよいのではないか?
そんな風に声をかけるのではないでしょうか?
主語を「私」という一人称から、「裕子」という三人称に変えるだけですが、問題と自分の気持ちの間に距離ができて、問題に対してより客観的に、第三者の立場から考えられるようになります。
悩みや問題と、自分自身を引き離す。少し離れたところから、「悩んでいる自分」を見ることが出来る。客観的に、冷静に、問題に対処できる。これが心理的ディスタンスの効果です。
心理的ディスタンスの取り方については「ネガティブな感情の対処法 心理的ディスタンスを取りましょう。」でも方法を紹介していますので、参考にしてみて下さい。
※Bruce Hood著『The Science of Happiness: Seven Lessons for Living Well 』を参考にしています。