嫌な出来事があって(A)、かっとなったり、相手と喧嘩になってしまったり等の言動を取る(C)までの間に、自分の考え(B)が挟まっていると説明してきました。特に自分でも意識していないけれど奥深くに埋もれている信念のようなディープBが、自分の言動(C)を決めていくということを説明しました。
では、自分の考え(B)、特にディープBは、どうやって作られたのでしょうか?
それは思考のトラップ(Thinking Trap)が元になっている場合が多いのです。思考のトラップは、考える癖、物事を捉える癖といえます。
これまでの人生の経験に基づき、物事のパターンや世界が動いているルールを、自分なりに認識していきます。(それが必ずしも正確な事実ではないとしても)幾つかの特定の出来事を集めてきて、そこに共通するパターンやルールを、世界のすべてに当てはめようとする癖です。私達の脳は、幾つかのサンプルを集めてルールを見出すように働いています。そのルール作りの過程で、特定の考える癖、思考のトラップが作られて、無意識のうちにその思考のトラップに基づき、物事や状況を見ていくようになります。思考のトラップの色眼鏡をかけて、自分の考えBが作られていきます。特にディープBは思考のトラップで塗り固められている場合が多いのです。
普段は自分がこういう思考のトラップに陥っているとはなかなか気づきません。あまりにも頑固に、あまりにも自然に、私達の考え方の癖を作っているので、それが日常と化して意識できないのです。
ですから、自分がどのような思考のトラップを持っているか、どういう思考のトラップに陥りやすいかをチェックする必要があります。
ポジティブ心理学者達の研究により、多くの人達に共通する思考のトラップの例が明らかになっています。代表的な思考のトラップを見て、自分の考える癖にあてはまっていないか確認してみましょう。
「レジリエンスを身につけるワーク⑥ 思考のトラップに注意!」でも、次の5つの思考のトラップを紹介しました。
Mind-reading マインド・リーディング
人の気持ちを勝手に想像しわかっていると思い込む。または、人が自分の気持ちを全部わかっていると思い込む。
Me trap ミー・トラップ
全部自分が悪いと思い込む。罪悪感を感じ、問題を全部自分のせいだと責める。
Them trap ゼム・トラップ
ミー・トラップの反対の思考。全部他の人が悪いと思い込む。自分以外の誰かのせいで問題が生まれたと責める。
Catastrophizing カタストロファイジング 深刻化する
悩みや問題をずっと考え続けて反芻する。非現実的な最悪の事態を想像してパニックになる。自分の想像が、現実を超えて、心配を増幅させる。針小棒大の考え方。
Helplessness ヘルプレス 無力感
一つの問題がすべての事に悪影響すると考え、自分には何もできないと考えて何もしない。絶望して諦める。
加えて、次のような思考のトラップも、私達が陥りやすいものです。
Jumping to conclusion 結論にジャンプ
十分な情報や判断材料がないのに、一足飛びに結論(たいてい悪い結論)を出す。
Tunnel vision トンネル・ビジョン
物事の悪い面しか見ない。あるいは物事の良い面しか見ない。
Magnifying or minimizing 極大化と極小化
現実を正しく把握せず、悪い事を極大化して考え、良い事を極小化して考える
Emotional Reasoning 感情支配
世界をありのままではなく、自分の感情の状況によって捉える
Overgeneralizing 過度な一般化
特定のルールを、すべての出来事にあてはめて考える
幾つかの例を挙げてみましょう。
Aさんに振られてしまった。私はもう誰からも好きになってもらえないし、結婚もできない。
陥っている思考のトラップ:極大化と極小化。一人の人に振られたとしても、他の人から好かれないということはありません。
仕事に必要な資格試験を受けたけれど不合格だった。私はやっぱりだめな人間だ。もともと頭が悪いのだ。何をやってもどうせうまくいかない。
陥っている思考のトラップ:無力感。資格試験に一度失敗したからと言って、人間性や能力まで全部だめということはありえません。
配偶者と子供の教育の事で朝口論になった。悲しいし、苦しい。もう世界が全部真っ黒で、何もかもが上手くいかない気がする。何もやる気がない。
陥っている思考トラップ:自分の感情で世界の在り方を決めてしまっています。
あなたが書き出したB(あるいはディープB)の中に、上に挙げた思考のトラップに影響されている物はありますか?自分が頻繁に陥っている思考のトラップはありますか?
自分がどのような考え方の癖があるのかを把握するために、自分が陥りやすい思考のトラップを見つけていきましょう。
ノートに書き出したBを見て、思考のトラップに影響されている物はないか、チェックしてみましょう。自分が陥りやすい思考のトラップがあれば、リストアップしておきましょう。
※Karen Reinvich博士の著作『The Resilience Factor: 7 Keys to Finding Your Inner Strength and Overcoming Life’s Hurdles』を参考にしています。